
承認欲求が極限に達した未来
2025/03/17 wrote
先日掲載した「認知戦略」に関するコラムに、多くの反響をいただきました。
日常にある認知戦略(未読の方はコチラから)
なかでも、その記事に登場した“承認欲求おじさん”が大きな注目を集め、
「承認欲求おじさん、絶妙にコミカルwww」
「実際にああいう人が社会のスタンダードになったらどうなるんだろう?」
「笑いながらも妙に納得してしまった」
といった感想を数多くいただきました。ZENSIN自身も改めて、「承認欲求」というテーマがユーモアとしての高いポテンシャルを持っていることを実感した次第です。
そこで今回は、少しSF的な要素も交えながら、「もし承認欲求おじさんの深層である〝捨て身の漢気〟が伝わらず、単に表層だけが社会に浸透してしまったとしたら、一体どんな未来が待ち受けているのか」を想像してみたいと思います。
2050年:「認知最適化社会」の到来
令和も終わり、2050年――。
新たな時代に入った人類は、ついに「完全承認欲求社会」を迎えた。
かつては「承認欲求おじさん」などという言葉があったが、もはや誰も知る者はいない。なぜなら、すべての人間が、承認欲求の最適化を果たし、社会全体が「俺がやった」で埋め尽くされることになったからだ。
完全承認欲求社会の誕生
テクノロジーの進化により、個人の「承認スコア」が完全に可視化され、あらゆる行動がリアルタイムで数値化される社会が実現した。
たとえば、飲食店でカレーを注文すると、AIが即座に「このカレーはあなたのアイデアによるものです」と認識し、「カレー発明者ポイント +10」が付与される。
また、道を歩くだけで、そのルートが「新しい観光名所」として登録され、「都市開発ポイント +25」が加算される。
さらに、自宅で寝ているだけでも、「あなたの休息が、この国のGDPに貢献しています」と評価され、政府から「国民経済活性化ボーナス」が支給されるようになった。
もはや「何かを成し遂げる」必要はない。すべての行動が、自動的に“偉業”としてカウントされる時代が到来したのだ。
あらゆるものが「俺がやった」
かつての「承認欲求おじさん」の倒錯的な適応は、もはや社会の標準仕様となった。
宇宙探査の最新ニュースが流れるたびに、「俺のアドバイス、NASAもようやく理解できたか」と誰もが発言。
オリンピックのメダリストが表彰されると、「あいつを育てるのに俺も苦労したよ」と国民全員が確信。
新しい数学の定理が発表されると、「さては俺のアイデアをパクったな」と即座にSNSに投稿。
結果、2050年の社会では、すべての出来事に対して、全人類が「俺がやった」と主張する状況が生まれた。
AIによる「俺化」技術の進歩
技術の進歩により、人々の記憶は「俺がやった記憶」に自動変換されるようになった。
たとえば、友人と会話をしていると、AIがリアルタイムで脳にシグナルを送り、
「お前、これ前にやってたよな?」
と囁くことで、「俺がやった感」を強化してくれる。
また、政府が提供する「My・Legacy・System」により、誰もが歴史上の偉業の一部に関与したことになり、
「織田信長のアドバイザーだった」
「エジソンに電球のアイデアを教えた」
「ビッグバンの発生に立ち会った」
といったデータが公式記録として登録される。
企業の人事制度の変革
現代社会では、「成果主義」や「実力主義」はすでに廃止され、「いかに堂々と“俺がやった”と言えるか」が評価基準となっている。
ある企業では、新人研修の最終課題として、「世界の歴史をお前の歴史として語れ」という試験が課される。
昇進試験では、「あらゆる物事を“俺がやった”に変換する能力」が問われる。
役員会議では、「会社の未来」ではなく「会社の過去」をいかに自分の手柄として語れるかが重要視される。
最も優秀な経営者とは、「会社が創業する前から貢献していた」と主張できる人間となった。
こうしたトレンドを受け、ビジネス誌の表紙には、「承認欲求を極める」 というキャッチコピーとともに、座禅を組む経営者の姿が掲載され、大きな話題を呼んだ。
さらに、書店では自己啓発本が次々とベストセラーに。
『“俺がやった”思考で幸福度10倍up!』
『社会学者が語る−承認欲求を満たす3つの法則』
『全ては俺の偉業なり ~承認欲求マネジメント完全版~』
などの書籍が売り切れ続出。企業の研修資料として採用されるほどの人気を誇っている。
こうして、「俺がやった」と言い切るスキル こそが、次世代のビジネスパーソンに求められる最重要能力となっていったのだった。
「違う、俺がやった」――銀河系外からのメッセージ
ところが、ここにきて人類にさらなる衝撃が走りました。ある日、上空に突如として巨大な通信ノイズが出現し、不可解な電磁波パターンを伴う音声が世界中の通信衛星に割り込んできたのです。そのメッセージはこう告げていました。
「違う、俺がやった。」
専門家たちがスペクトロメータ解析や周波数空間マッピングを駆使して解読した結果、この通信は銀河系外から発信されていることが判明。さらに、メッセージには高次元光子フラクタルの痕跡と呼ばれる特殊な干渉波も含まれており、地球の既存科学では説明が困難なものだったのです。
世界中の人々は震撼しました。なぜなら、現代社会の根幹を成している「俺がやった」文化を揺るがす存在――それも地球外の知的生命体によるもの――が姿を表したからです。
宇宙戦争の勃発、しかし物質的な攻撃ではなく…
人類は当然、テクノロジーや軍事力で対抗しようと試みました。ところが、銀河系外からのこの生命体は、圧倒的な高度技術を持っていることが判明。物質的な戦いを挑んでも、到底勝ち目がないことは明白でした。
しかし、彼らが仕掛けてきたのはビーム砲やミサイルといった物理的な攻撃ではありませんでした。なんと、「認知」そのものを揺るがす“戦”だったのです。
通信は繰り返しこう主張します。
「違う、俺がやった。」
これによって、人類の中に芽生え始めたのは、「自分たちは何もやっていない」という存在意義の危機感でした。どんなに「俺がやった」と主張しても、未知なる知性体があらゆる偉業を「違う、それも俺がやった」と覆してしまうのです。
「俺らがやった」――人類の意識革命
そこで、人類は最後の手段を思いつきました。
「俺がやった」を個人レベルで唱えるのではなく、人類全体が“同時に”一つの意識を共有することで、より大きな『俺』になる。
すなわち、高次元的な集団意識、「俺らがやった」として融合するのです。
宇宙人が発信する「違う、俺がやった」という認知攻撃に対して、人類は全員が同時に「俺らがやった」と認識することで対抗しました。もはや個人の承認欲求を超えた、全体意識としての承認能力が高まり、未知なる干渉波を打ち消すほどの思念共振が起こったのです。
その結果、宇宙からのメッセージは徐々に弱まっていき、やがて完全に消滅しました。こうして人類は、かつてないレベルの意識革命によって“認知戦争”に勝利したのです。
おわりに
すべての発端は、「俺がやった」と豪語し続けた承認欲求おじさんの漢気の真意が伝わらず、表層だけがコピーされて令和に大旋風が巻き起こされてしまったことから始まったのかもしれません。
社会全体が「俺がやった」で埋め尽くされる未来
歴史上の偉人の業績すら、AIによって自動的に「俺がやった」に書き換えられる時代
会社の評価基準も、「あらゆる物事を“俺がやった”に変換する能力」に変化
そして、最終的には地球外生命体との「承認欲求を賭けた宇宙戦争」が勃発
最終的に、人類は「俺らがやった」という高次元的な共鳴意識を得ることで、未曾有の危機を乗り越えました。
ここまでくると、やはりその「やった」の前に何が既にあったのかという現実認識、そして「やった」の後に実際に何を生み出したのか。このことが、いわゆる「やった」という認識以上に重要なことなのかもしれませんね。それを平成の承認欲求おじさんは反面教師として私たちに気づきを与えてくれていたことに改めて感謝ですね。
令和を生きる私たちは、まずは自分自身と向き合うことで、より健全な社会をつくっていけるのかもしれません。
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